親方日記

人は自然、虫も自然(1)

2018.03.29

ちょっとこれは日記とは言えないかもしれませんが、もう10年ほど前になりますが、福井新聞に「北風南風」という随筆の欄がありまして、依頼を受けて5回シリーズで書かせていただいたものがあります。

まずはその1回目「人は自然・虫も自然」を紹介させていただきます。

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私は今、越前市の大滝神社奥の院という所でこの原稿を書いている。
机の上よりも自然の中にいた方が気分がいいし、素直な心で書けると思ったからである。
なぜここにいるかというと、五月六日から八日までの三日間、自然と暮らし隊のメンバーと、
作家であり虫取りの大好きな養老孟司先生と一緒に虫取りをしたからである。
初日の六日は味真野へ行き、二日目はここで、三日目の八日は三国の雄島で虫取りをした。
先生とは数年前から今庄、南条、武生、そして嶺南の常神と県内各地で結構この虫取りをご一緒している。
自然と暮らし隊について簡単に紹介させていただきたい。
まず私たち自身が自然と触れ合い、自然に手入れをし、自然の良さも怖さも実体験として味わい、自ら体を動かすことによって、自分がどう変わったかを学ぼうという市民グループである。
これまでには環境文化講演会をはじめ、白山地区に拠点となる山小屋「木鶏庵(もっけいあん)」を建設し、昨年は近くの森の中で「森のフォーラム&コンサート」を開いた。
この際には武生工業高校の生徒さんたちには、バイオトイレをはじめ、森の会場造りのための間伐作業などで協力もしていただいた。
また、養老先生が福井に来られる際には「養老塾」と称して勉強会も開いている。
五月六日には御誕生寺の板橋興宗住職を招いて対談を実現した。
話を先の大滝での虫取りに戻すが、虫を取っているといろんなことに気づかされる。
みなそれぞれが、たたき棒とアミを持ち、枝をたたいては落ちてきた虫を下で受けるという単純な作業を繰り返しながら山を登っていく。
当然のことながら、どういう樹木に多くいるかなど、身体が勝手に覚えていく。
最初は虫を追う人の目線であったはずが、無意識のうちに次第に虫の目線になっていることに気付く。
先生が「日が差してくると、虫も活発になって葉先に上がってくるんですよ」とおっしゃった。優しい目であった。
みなが無心に子供のような顔付きになっていく。

大滝神社を上がり、いよいよ奥の院に到達すると、突然目の前に巨大な杉の木が現れた。ご神木である。
その圧倒的な存在感にみな今までの疲れなど忘れ、感動のあまり立ち尽くした。
原始的な身体感覚とでもいおうか、自然と一体となって溶け込んでいくような一瞬であった。
自然の中に身を置くと、頭の中だけで「ああすれば、こうなる」といった予測をはるかに超えた、
人間の細胞の一つ一つに働きかける命そのものを感じ取ることができるように思う。
そのためには文明社会の中では、とうに退化してしまった感覚を総動員しなければならない。
「人も自然、虫も自然」。私たちは虫取りを通して、この二ミリにも満たない小さな虫と地球の命を分かち合っていることに気付かされるのである。
(越前市八幡二丁目)

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